周囲を疲れさせ巻き込んでしまう感情の激しい人がいます。
精神科領域では「境界性人格障害」いわゆる「ボーダーライン」と呼ばれています。
ボーダーラインについては詳しくは以下の記事をご参照ください。
精神科で診断を受けるほど重篤ではないけれど、感情が激しく周囲が腫れもの扱いをしないといけなかったり、周囲を巻き込むような行動を取ったりする人というのは、普通に生活をしていても結構出会います。
今日はそのようなボーダーライン的な人について書いていきます。
他者への評価が揺れ動きやすい 理想化とこき下ろし
ボーダーラインの人の特徴を挙げる時、必ず挙がるのがこの「理想化とこき下ろし」です。
出会ったばかりで他者のことをものすごく高く評価したかと思えば、ある日突然大嫌いになり批判の対象とします。
最初は「こんなに尊敬できる人はいない」「あなたがいないと生きていけない」と、思わず嬉しくなるようなことを言うのですが、突然「お前のような最悪なやつはいない」「クズだ!」と強烈に罵ってくるのです。
ここまでひどくなくても、他者への評価がコロコロ変わる人は一定数います。
これはつまり、「安定した対人関係を築けない」ということです。
人と仲良くなるのは早くて社交的に見えても、関係を維持するのが難しいわけですが、これは理想化とこき下ろしからきています。
なぜ理想化とこき下ろしが起こるのか
これはその人がどのようにして世の中の嫌なことから、自分の心を守っているのか、が関わってきます。
人間は誰でも、嫌なことがあった時に自分の心を守ろうとする力が働きます。
これを私たちは「防衛機制」と呼んでいますが、この防衛機制は人によりどのようなものを使うのかが異なります。
ボーダーラインの人は「分裂」と呼ばれる防衛機制をよく用います。
分裂とは、ある人のことを「良い部分」と「悪い部分」に完全に分けてしまうことを言います。
誰にでも良いところと悪いところがあり、それをすべてひっくるめて一人の人間なわけですが、この分裂が起こると一人の人間を色々な要素が混じって統合されたものだ、とは受け取らなくなります。
「良い部分」に対して「自分を救ってくれる神様だ!」と理想化して、その期待に相手が答えてくれないと、ただちにこき下ろしてしまうのです。
幼少期の子どもなどにとってはこれは普通のことで、小さな子どもは成長とともに、人間は良い部分も悪い部分もすべて含んで一人の人間なんだ、と学ぶわけです。
ボーダーラインの人は幼少期の心の発達が何らかの原因で上手くいかず、大人になっても一人の人間を様々な要素を統合した人間だと見られない心の動きが働くのです。
見捨てられ不安
そしてボーダーラインの人のもう一つの特徴は「見捨てられ不安」だと言われています。
見捨てられ不安とは「現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとする、なりふりかまわぬ努力」とされています。
「なりふりかまわぬ努力」
という表現はなかなか強烈ですが、実際にその通りです。
ボーダーラインの人は他者を信頼することがとても難しいので「お試し行動」をします。
わがままを言ったり相手をわざと突き放してみたりして、どこまで相手が自分を許してくれるか、受け入れてくれるかを試します。
そんなことをすれば当然対人関係は不安定になり、周囲が自分から離れていくことも多くなります。
そうすると「やっぱりみんな裏切る!」と激高し、上記に書いたようにこき下ろしが始まります。
これが基本的な対人パターンですが、実際に自分が見捨てられると(見捨てられると感じると)、ものすごい勢いでしがみついてきます。
相手の気を引くことに全力を出し、泣いたり怒鳴ったり飛び出したり、時には手首を切ったりなどの自傷行為や自殺未遂をしたりします。
まさに「死んでも良いから」くらいに勢いで相手の気をひこうとするのです。
ボーダーラインの人たちは、自分の心の中にある不安や悲しみを自分一人で処理することができないので、周囲に離れていかれるとその時には異常に心が揺れるのです。
文字通り「生きていけない」のでしょう。
ここまで紹介した①理想化とこきおろし、②お試し行動、③見捨てられ不安、を見ていただくとお分かりだと思いますが、ボーダーラインの方の周囲にいる人たちは非常に疲弊しますし、ボーダーラインの方自身もいつもいつも辛くて寂しくて不全感をなくせずにいます。
そしてそれが人を変え場所を変え、何年も続くのです。
「不安定なまま安定した人」というのがボーダーラインです。
自分の大切な人がボーダーラインだったら?
では、自分の大切な人がボーダーラインであったらいったいどうしたら良いのでしょうか?
枠をつける
私は「枠をつける」ことをおすすめします。
親子や夫婦、恋人、友人であれば、どれだけ振り回されても関係をきれない場合もあります。
ボーダーラインの人は言葉で自分の感情を表現することが上手で、話をしていて楽しい魅力的な方が多いのも事実です。
しかしあまりに「私が守ってあげなくては」と思うとこちらの身が持ちません。
深夜に長時間の電話がかかってくる、気に入らないことがあると手首を切り救急車を呼ぶ、などはよく起こるでしょうし、友人の恋人と浮気をしたり、自分が既婚者なのに浮気をしたり性的な逸脱行動もあります。
だからこそ「枠をつける」ことです。
電話は何時以降は取らない、自分の恋人や友人は紹介しない、喧嘩は1時間を超えたら中断する、などルールを設けるのです。
必ずそのルールを撤回する、やぶるために全力でぶつかってくるでしょうが・・・無理なことは最初からしないし、一度枠をきめたら変えないことだと思います。
対人関係において枠をつけるのは誰に対しても大切なことですが、ボーダーラインの人に対しては特に大切です。
自殺未遂への対応
自傷行為や自殺未遂などをボーダーラインの人は繰り返します。
これは、嫌なことなどの葛藤を心の中で抱えきれないから衝動的に行動化しているのです。
もちろん注意引き行動であることもあります。
実際に亡くなってしまうことは少ないのでは?
と思われがちですが、そんなことはありません。
衝動性が高いがゆえ、抑えがきかずに致死率の高い自殺方法を行うこともよくあります。
そのため「どうせ死なない」と構えてしまうのは危険です。
かと言って、ボーダーラインの人の自殺行為に対して反応をしていると、その行為はどんどんエスカレートしていきます。
こうなってしまうと、家族や友人だけでは支えきれなくなってきます。
家族、友人、恋人、配偶者、職場などの本人の身近な人たちが協力することと、必ず医療機関に相談することが必要です。
精神科医からの適切な助言を受けて対応することが大切です。
本人は病院へ行きたがらないことがほとんどですが、例えば「眠れてないでしょ?睡眠について相談しましょう」と伝えるのも一つです。
周囲が協力しつつも無理なことまで背負わないことがポイントです。
おわりに
ボーダーラインの人たちには、医師であっても苦手意識を持っている場合があります。
それだけ大変な人たちですが、非常にドラマチックで全力で生きている姿は、他者を惹きつけます。
「悲劇の人」
「不安定なまま安定した人」
私は1年以上お会いしているボーダーラインの方が数人いますが、どの方も魅力的ですが、とても苦しそうな方たちでした。
そんな方たちが少しずつ、生きている実感を普通の日常でも感じられるようになるには、長い時間がかかりますが、決して不可能ではありません。