第二子が産まれた時、上の子どもが前はできていたことができなくなったり、急に甘えて後追いがひどくなったりした経験はありませんか?
これはお母さんを取られてしまう、という不安に対して、心を守るために無意識で自分を守るために行っていることだ、と心理学では言われています。
このような現象を「退行」と呼んでいます。
退行は精神科医療の世界でも、日常生活でも起こる機制です。
今日はこの「退行」について説明していきます。
防衛機制とは
まず防衛機制について説明していきます。
人間は色々な傷つきに対して自分の心を守るために、無意識で「防衛機制」というものを用います。
防衛機制には種類がたくさんあり、中には病的なものもあります。
例えば、辛くて思い出したくない出来事があったとして、その出来事や辛い気持ちを心の奥に押し込めて気づかないふりをする、という動きを取ることはよくあります。
これを防衛機制の中でも「抑圧」と呼びます。
他にも、ストレスがかかった時に腹痛を起こす、なども「身体化」という防衛機制です。
心のストレスを身体が引き受けてくれている、と考えられています。
防衛機制はその人の性格や生きてきた環境、心の健康度や年齢によって、何の防衛機制を用いて自分を守っているのかが変わります。
健康な防衛機制は誰でも用いており、過剰にやりすぎない場合は問題はありません。
ただ、時々不健康な防衛機制もあるので、そのような場合は社会的に問題が起こる場合もあります。
防衛機制についてもっとよく知りたい方は下記の記事をご覧ください。
今日紹介する「退行」も、このような防衛機制の中の一つです。
防衛機制 退行とは
退行とは、辛い出来事、ストレスの高い出来事、困難な出来事が起こった時に、今の年齢よりも幼い年齢に戻り、嫌なことや困難を避けようとする心の動きです。
先ほど例に挙げた、第二子が産まれた時に上の子どもが今までできていたことができなくなったり、甘えるようになったりするのは、退行の代表的な例です。
「赤ちゃん返り」と呼ばれている現象ですね。
上の子どもは自分よりも小さく、保護されるべき弟や妹ができた時、最初は受け入れられない場合があります。
母親の愛情や世話が自分に向かずに、小さい赤ちゃんに向くことはまだ一人では生きていけない子どもからすると、驚異的でもあります。
そのため、自分も小さな子どもに戻り母親の世話を受けようとする心の動きが働くのです。
この例のような子どもの退行はよく起こることで、多くの場合一時的なものです。
母親の愛情が自分にも向いていることが分かったり、環境に慣れてきたり、弟や妹への愛情が産まれてきたりすることで心が落ち着くのです。
防衛機制 退行の例
子どもだけではなく、大人にも退行が起こります。
例えば、外では紳士的でしっかりしている旦那さんが、仕事から帰ってきてほっとするとあなたに甘えてくる、なんて経験はありませんか?
他の人に聞かれると恥ずかしくなるような言葉使いをしたり、抱きしめてもらいたがったり・・・
これは「健康な退行」と呼ばれています。
健康な退行なので誰にでも起こりますし、社会生活を送る上で心の充電をしているだけで、何も変なことではありません。
突然仕事の電話がかかってきたら、すぐに仕事モードに戻れる、いつでも戻ってこれる状態だからです。
健康な退行だけではなく「病的な退行」もあります。
これは、精神的に不安定な大人の方が、精神科などの保護的な場所に入院したりすると起こることがあります。
食事・排泄・入浴などの生きていく上で重要な動作が自分一人ではできなくなったり、まるで赤ちゃんのように泣きじゃくったりします。
何もできなくなるわけですから、看護師などにすべての世話を受けることになりますが、まさにそれは赤ちゃんの状態です。
養育者が世話をしないと死んでしまう赤ちゃん、この状態にまで戻ってしまうのです。
入院だけではなく、心理面接などの保護的な場でもこのような退行が起こることはあります。
子どものような話し方になったり、おもらしをしてしまうこともあります。
このような状態は、適切な支援・治療を受けた方が良い段階です。
自分で実年齢に戻ることが難しいので、安全を確保しつつその人の大人の部分を支持していくのです。
このように、同じ退行でも表現の仕方は異なり、健康なものもあれば病的なものもあるのです。
おわりに
今日は防衛機制の中でも「退行」について紹介していきました。
年齢よりお幼くなることは、ある意味では私たちに安心をもたらします。
誰かに心理的に世話をしてもらう、というのは、いきすぎると依存になってしまいますが、誰にでもある願望です。
自分が心を休める場を持っていることで、健康的に退行することもできるのです。