心理職をしている者としては、心理検査を正しく実施し分かりやすく解釈をすることは必須のスキルです。
しかし心理検査は面接とはまた異なった難しさがあります。
ロールシャッハ・テストなど、実施自体が難しい検査もありますし、解釈をするための資料に乏しい検査もあります。
特に心理職の初学者は苦労をすることと思います。
私自身、卒業後就職をして最初の5年間は心理検査が苦手で苦手で、解釈にも膨大な時間を費やしていました。
今日は心理検査の中でも「WAIS-Ⅲ」に焦点を当てて、私が考える解釈のコツを書いていきたいと思います。
この記事は心理職の初学者向きですが、WAIS-Ⅲを受けたことがあり結果がいまいち分からない、という方が読まれても参考になるかと思います。
WAIS‐Ⅲの解釈をする時のコツ
①全IQについての解釈を行う
WAISの特徴としてまずその人の「全IQ」が分かること、というのははずせませんね。
全IQとは、その人の総合的な能力を指します。
まずは全IQがどの範囲に入っているのかを見ていきます。
平均が100ということはご存じだと思いますが、以下が参考分布です。
130以上 非常に高い
120~129 高い
110~119 平均の上
90~109 平均
80~89 平均の下
70~79 境界域
69以下 低い
この中でどこの領域に属しているかは、その人の全体的な能力を示す、とも言えるので大切ですが、この全IQだけでその人のすべては語れませんので注意をして下さい。
「ざっくりとした印象」だと思うようにします。
そのため所見にもあまり確定的なことは書きません。
②言語性IQと動作性IQを見る
次に言語性と動作性IQを見ていきます。
分布は上と同じですが、この時に言語性IQと動作性IQの「差」も見ていきます。
ここからとっても大切です!
言語性IQと動作性IQの中程度の差を過剰に病的なものだとみなしてはいけません!
昔はこの言語性IQと動作性IQの差の広がりに注目し、そこから発達障害の査定が可能とまで言われていました。
中程度の差を過大に解釈していた時代です。
しかし、実際には10点程度の差である被検査者は現実生活では正常です。
差が20点を超えてくると日常生活でも障害が見られる可能性が出てきます。
25点以上の差であれば日常生活で困難になるほどの障害が見られる可能性が高くなります。
有意水準で言うと、.15の差は過大解釈に注意です。
実際には.15の差はそれほど珍しくないことが多いです。
解釈をする時は差の頻度を見ることを忘れないようにして下さい。
③群指数を見る
さて、一昔前は言語性IQと動作性IQの差に注目が集まっていましたが、今は群指数の解釈が重要だと言われています。
群指数の内容は以下に記します。
言語理解:知的好奇心や一般的な事実に関する知識の幅などを見る項目。単語の意味をどれだけ理解しているか、論理的に推理する能力がどれだけあるか、日常生活で一般的な情報をどの程度吸収しているかを総合的に示す。
知覚統合:視覚体制化能力や非言語的な抽象的推理能力が見られる。要は目の前のものや状況を把握する力、状況判断をする力のこと。図と地の分化能力や視覚的な長期記憶、手と目の協応運動能力なども見ることができる。
処理速度:視覚的な情報処理の能力を見ることができる。事務的な作業を素早く正確に処理するのが得意かどうかを、精神運動速度がが早いかどうかが分かる。
作動記憶:聴覚記憶を頭の中で保持し、それを用いて思考や行動をする能力を示す。例えば算数の文章問題を耳で聞いた時に、その文章問題の情報を記憶し、それを元に計算をする、など。これが高いと一度に複数個の情報を口頭で伝えられても対応できたりするので、頭の回転が速くうつる。
この4つの群指数のディスクレパンシー(差)を見ていきます。
これも先ほどと同様、.15の差では日常生活で分かるほどの困難は見出せません。
.05の差でようやく所見に書けるものだと思っておいて下さい。
書き方としては、例えば処理速度<作動記憶で大きな差が出ていた場合以下のような仮説が立てられます。
処理速度は作業のスピードのことを示し、作動記憶は頭で考える力を示します。
これに大きな差が出ている、ということは、頭では理解し考えることができているけども、実際の作業スピードが遅い、ということです。
そうすると、本当は分かっているのに周囲からは「できない人」と思われ、正確な能力を把握してもらえなかったり、自分自身も理解はできるのに実行はできない、と自信を喪失したり、ということが日常生活で起こる可能性が出てくる、ということです。
このように、所見には数値だけではなくそこから分かる日常生活で起こりうる困難や、生かせる能力について書いていくことが大切です。
④下位検査を見る
下位検査は所見を書く上で多くの情報をもたらします。
群指数はいくつかの下位検査で構成されています。
言語理解→単語・類似・知識
知覚統合→絵画完成・積み木模様・行列推理
処理速度→符号・記号
作動記憶→算数・数唱・語音整列
例えば群指数の中で、言語理解が高い人がいるとします。
しかし下位検査では単語<類似と差が出る、ということはよく見られます。
単語<類似、となった場合は「言葉の意味についての知識はあまりないが、言葉の概念を理解したり、言語の連想能力や流暢さなどが強みとなる、と言えます。
このように、被検査者の細かい能力を見ていくことができるのが下位検査です。
下位検査の内容を簡単に以下に示します。
単語:言葉の意味をどれだけ知っているか。言語知能、知的好奇心にも影響を与える
類似:言葉の連想能力や流暢さなどを示す。内省力や洞察力を見ることができるので心理療法の予後をはかることもできる。
算数:基礎的な計算能力や数学的な推理能力を見る。
数唱:単純で機械的な聴覚的作業記憶が優れている。
知識:知的好奇心や一般的な事実に関する知識の幅の広さ。
理解:日常生活での実際的な知識の幅。情動的な状況でも高度な問題解決能力を発揮できるかどうかを示す。
語音整列:聴覚情報を一時的に保持して、並べ替えを行うことが得意かどうか。
絵画完成:周囲の環境を細部までよく認識しているかどうか。視覚的な長期記憶が優れているかどうか。
符号:教示に素直に従い事務的な作業を正確に素早く行う能力を示す。
積木模様:見えないものを心の中で映像化したり、手と目の協応運動をする能力。
行列推理:非言語的な抽象的推理能力を見る。限りある視覚的な情報でどれだけ推論的な思考ができるかどうか。
絵画配列:社会的な出来事を予期したり解釈したり、計画する能力があるかどうか。
記号探し:情報処理の速度を見る。情報を素早く解読し素早く反応する能力。
組み合わせ:断片から全体を推理する能力を見る。手と目の協応運動にも関係がある。
群指数の中で下位検査に差があるかどうか、どの下位検査が高く低いのかを見て解釈を書いていきます。
下位検査は10点が中間なのでそれ以上高ければある程度得意な能力と言えます。
以上がWAIS‐Ⅲを解釈する上で、最低限必要となる知識です。
この知識をもとに、被検査者の検査時の様子、現実で起こっている問題、検査理由などを総合して所見を書いていきます。
所見は「医療者用」と「本人用」に分けて書くと良いと思います。
本人用は専門用語を用いず、なるべく日常生活の困難についての気づきとなるようにサポーティブに書いていくことは基本ですね。
心理職をしていても、医療分野以外では心理検査を取る機会がなかなかないこともあります。
心理検査の所見を見ても分からない、という心理職もいます。
特に公認心理士ができてからは、心理検査自体を見たこともない、という心理職も出てきています。
しかし、心理検査は心理職の大きな専門性ですし、心理検査を正しく実施し、役に立つ所見を書けることは必要なスキルです。
心理職のみなさま、共に心理検査のレベルアップ、頑張っていきましょう。