精神障害を抱える方の恋愛事情について考えたことはありますか?
この問題は対人援助職を目指す方、精神障害者当事者の方、家族が精神障害を抱える方はもちろん、普段精神障害者と関わりがあまりない方にも知っておいて欲しい内容です。
今日は精神障害者の恋について書いていきます。
精神障害者のリアルな恋愛事情
精神障害を抱える方、と一言で言っても、その方の状態は様々です。
とても重たい状態で自分で自分の言動に責任を持てない状態の方もいれば、心の病になってはいても、仕事をしたり家庭を持っている方もいます。
一時的な落ち込み、という病状としては軽い状態の方もいます。
一般的には外来で通院されている病状の安定している方は、当然恋愛も自由に楽しみます。
もちろん気持ちの不安定さや病状の影響で、恋愛関係を安定して結べない、などの問題が起こることもありますが、恋愛を禁止するような動きはあまり起こりません。
しかしその中でも、精神障害を抱えている方が恋愛をする場合、難しい問題が起こることは事実です。
例えば以下のようなパターンです。
①性的虐待を受け続けており、男性に対する距離感を学ぶ機会を奪われていた女性が、付き合っていない男性と夜間にドライブに行こうとしており、それについて心配した治療関係者が行かないように女性に話をする
②知的障害と精神障害を抱えている女性に彼氏ができたが、そのカップルは避妊などの知識がなく、また妊娠をすることでそのカップルの生活が大きく変化し、その変化はとても本人たちだけで責任の取れるものではないと予想される時、デートをする時間や場所を家族や支援者側で制限する
③好きな人ができると相手に依存をして、生活に乱れができる方に対して、恋愛を中止して自分の生活に集中するように主治医が助言をする
このようなパターンは精神医療の現場や被虐待児を支援する施設などでは、よく起こる問題です。
移り変わる精神障害者の恋愛
一昔前までは、精神障害を抱える方の権利が著しく侵害されていた時代が何十年も続きました。
劣悪な環境の病院でろくに治療も行なわずに収容する、縛りつける、などが日常的に当たり前のように行われていた時代です。
この時代には、精神障害者が恋愛なんてとんでもない、というのが常識的な考え方でした。
暗黒の時代ですが決して忘れてはいけない時代です。
現在では、ようやく精神障害者の権利擁護の必要性が世の中に浸透し、制度も整ってきました。
精神障害の治療についての研究も進み、症状も軽症化してきています。
そんな中で、当然精神障害者も恋愛をするのが当たり前になります。
もちろん元々当たり前なのですが、ようやく世間にそのような認識が広まってきた、という意味です。
実際に、私は結婚し家庭のある相談者様にたくさんお会いしたことがありますし、恋人が支えてくれその人のキーパーソンになるケースも多くあります。
精神障害者の集まりで出会った当事者の方同士が結婚し、子どもが産まれたことを報告に来て下さったこともあります。
しかしそれでも、「恋愛を止める」「禁止する」という動きはあるのです。
もちろん、その当事者の方の判断能力が著しく低下している時に、あまり良い関係ではない異性との付き合いを心配することはありますし、デートをするのはもう少し状態が落ち着いてからでも良いのでは?と助言することもあるでしょう。
異性にひどく依存的になり、そのたびに自殺未遂をしてしまう人に、一度自分の病気を治すことに専念してはどうか、と伝えることもあるかもしれません。
しかしそのような「治療的」であったり、その人のことを心配した助言ではなく、「精神障害を抱えている人同士の恋愛はしないほうが良い。不幸になる」という考えの人たちもいます。
それは支援者であったり家族であったりもするのです。
恋愛禁止は差別なのか
私の考えですが、「恋愛を禁止」するということはどんな人に対しても不可能なのではないか、と思います。
男女が集まればそこに恋愛の感情は必ず生まれます。
恋愛禁止の部活、社内恋愛禁止の職場、そんな場所で恋愛関係になる男女が0かと言えば、そんなわけないですよね。
そもそも世の中から不倫や浮気もなくなっていないのに、既婚者でもない人に対して「恋愛禁止」なんて言うのはおかしいのです。
既婚者という配偶者以外と恋愛をしたら有責になる、と決められている人たちでさえ、不倫をしたりしてしまう可能性はあります。
それくらい男女の恋愛感情を止めるのは不可能なのです。
それを「禁止」するのは、やはり「精神障害者だから」という差別にもあたるのでしょう。
しかしここで大切なのは、「精神障害者だから」恋愛を禁止するのは差別的な視点が含まれていますが、「今のあなたが恋愛をするのは心配だ」「恋愛をしても相手に依存せず恋愛を楽しめるように工夫点を考えてみよう」「今まで性教育も受けたことがなく知識もまったくないなら、まず性について一緒に勉強をしてみよう」など、その人個人が恋愛をする精神状態、成熟度にない、という視点のもと「支援的に」関わるのであれば、とても有益なことだと考えます。
恋愛を止めることはできないですし、すべきでもありませんが、恋愛は楽しいことばかりではなく傷つくこともある、ということ、傷ついた場合は自分で自分の感情に責任を持たないといけない、ということは当事者の方が知るべき事柄です。
そして精神障害を抱えているからこそ、それらを学ぶ機会がなかった人が精神科医療や施設にはたくさんおられます。
そういう方へ「支援的に」関わることは大切なことです。
私もよく患者様のご両親に「娘の恋愛を止めて欲しい」と言われることがあります。
ご両親の心配な気持ちも分かりますので、ご両親とご本人様と一緒に話し合う、という対応が多いです。
基本的には恋愛は自由であり、医療機関が禁止できるものではありません。
しかしその恋愛がその人の病状に大きな影響を及ぼしている場合や、その人が危険な目に合う可能性が高い場合は、そのことをきちんと伝えて、ご本人様含める関係者で検討していくのが良いと思っています。
そして恋愛をすると決めたなら、その恋愛は自分で責任を持たなければならない、という誰にでも当てはまる責任があなたにも出てくる、ということを共有していきます。
この「自分で責任を持つ」ことに失敗した場合は手助けをしますし、自分で責任を持つことがその方の成長や治療にとても役立つこともよくあります。
精神科医療に今後関わる方へ知っておいて欲しいこと
私は実習生の方へ話をする時に、必ず今日の記事に書いたような恋愛についての話をします。
恋愛禁止の部活、職場はたくさんありますし、不倫のように禁止されていても恋愛感情を止められない男女はたくさんいます。
精神障害を抱えている方も、私たちと同じように恋をします。
恋をすればデートもするし結婚をする方もいます。
その当たり前のことを一方的に禁止する人もいる、そしてそれは支援者や家族などの、精神障害者に近い存在の人であることは少なくないのです。
このことをぜひ自分自身で考えてみて下さい。
今のこの現実がどういうことなのか、何が起こっているのか、自分はどう感じたのか、それらの自分なりの答えを持っていることは、支援者になる上で大きな武器となります。
一番良くないのは、「規則で決まっているから」「主治医の先生が言っているから」と責任を外に丸投げすることです。
自分で考える、または患者様と一緒に考えてその人なり答えを出していくことが、精神科医療で働く上ではとても大切になってきます。
おわりに
精神障害を抱える方の恋愛について書いていきました。
「恋愛を禁止する」という視点ではなく、「どんな生活をしていきたいのか、どんな人生にしたいのか、そのことを一緒に考える中で恋愛についても思いが固まっていく」という形は、まだまだ精神科医療ではできない場面もあります。
それでも「患者さんの権利です」とはっきりと答える若い支援者も多くおり、頼もしさも感じています。
本来は素敵な感情である「恋心」
この機会にみなさんもぜひ考えてみて下さいね。