アスペルガー症候群は今や多くの人に知られている障害です。
現在の正式名称は「自閉症スペクトラム」です。
スペクトラムという言葉から分かる通り、障害が軽いものから重たいものまで、すべてを包括する概念となっています。
そのため、今まで障害を発見できなかったレベルの軽い状態の方でも、自閉症スペクトラムの診断がおりることもあります。
精神科領域には一種の流行があり、自閉症スペクトラムは少し前から非常に注目されているので、今後も自閉症スペクトラムへの理解は深まり、支援も拡大していくのではないでしょうか。
さて、そんな風に自閉症スペクトラムの理解は深まっていますが、みなさん「カサンドラ症候群」という言葉を聞いたことはありますか?
自閉症スペクトラムの方への支援を考える上で、その方の周囲の人たちへの支援は必要不可欠です。
カサンドラ症候群を考えることはそれに当たります。
今日はカサンドラ症候群への理解を深めていきましょう。
カサンドラ症候群とは
カサンドラ症候群とは、自分の配偶者や親など身近な人が自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)であり、その相手と情緒的交流を持てないことで、鬱やPTSD、ストレス性障害などの状態になることを指します。
カサンドラ症候群は診断名ではなく「状態像」です。
カサンドラ症候群の状態の人が、抑うつ状態になり精神科を受診した場合、診断名は「うつ病」や「不安障害」「適応障害」などになります。
不登校などと一緒ですね。病名ではないのです。
さて、このカサンドラ症候群。
みなさんは具体的に想像できますか?
「自閉症スペクトラムのパートナーと情緒的な交流が持てずにうつや不安障害を発症する状態」
うーん・・・いまいち想像できないですよね。
カサンドラ症候群を理解するためには、自閉症スペクトラムの人がパートナーとの間でどのような難しさが起こるのかを知らなければなりません。
まずはそこを見ていきましょう。
自閉症スペクトラム(アスペルガー)の人がパートナーとの間で起こる問題
自閉症スペクトラム、いわゆるアスペルガーの人が、親しい人たちとの間で起こる関係性の問題はどのようなものがあるのでしょうか。
親しい関係がどのようなものなのかによりますが、ここでは最も自分の素が出て過ごす時間が長い「家庭生活」、つまり配偶者との関係で考えていきます。
自分の思いを分かってもらえない
カサンドラ状態の方の多くが悩んでいることです。
アスペルガー症候群は、他者の気持ちを「読むことが苦手」です。
「分からない」わけではありません。
曖昧で抽象的な物事を想像するのが苦手なのです。
人の気持ちは曖昧で抽象的なことがほとんどです。
アスペルガーの特性がある人は、「どうして私の気持ちを分かってくれないの!」と言われてもなかなか分からないのです。
しかしパートナーからすると、自分が一番分かって欲しい配偶者が、自分の気持ちを分かってくれない、寄り添ってくれない、というのは絶望を感じるほど悲しいものです。
会話が少ない
これは人によって差が出る部分ですが、アスペルガーの人は会話が少ないことが多いです。
アスペルガーの人はマルチタスクが苦手な傾向があるので、食事をしながら会話をする、ゲームをしながら会話をする、などを好まない人が多いですし、自分の趣味に熱中すると周囲が見えないことがあるからです。
パートナーからの話しに対して、うまーい絶妙な間隔で相槌を打つというのも難しい場合があり、「聞いているの?」と感じてしまうことも少なくありません。
聞いていないわけではないので、「聞いてるよ」と返事をするのですが、パートナー側は「じゃあ相槌くらいしてよ・・・」となるわけですね。
会話の内容ではなく、その前段階である「会話をする、しない」、「相槌をうつ、うたない」、で喧嘩になってしまうのです。
身体接触が少ない
アスペルガーの人は感覚過敏の人もいます。
人に触られたりするのを嫌ったり、異常にくすぐったがったり痛がったりするのです。
感覚過敏は皮膚感覚だけではなく、聴覚などにも出る場合があります。
手をつなぐ、抱きしめ合う、キスをする、など配偶者同士のスキンシップは関係を深めるのにとても大切ですし、相手から求められないことで傷つくこともありますが、感覚過敏を持っていると身体接触の機会が少なかったり、拒否をされたりする場合があります。
理解できない行動を取る
アスペルガーの人は、一見すると障害があるようには見えず、就労している人も多くいます。
家の外では社会性が高くふるまうことができる人もいるのです(ちょっと変わった人だな、と思われているような場合もありますが)
しかしアスペルガーの人にとって、社会性を維持しないといけない時間はとても疲れる時間なので、家に帰ると反動が出る場合があります。
例えば「手を叩きながら部屋をぐるぐるする」「一人で話をしている」「ひたすら寝まくる」などです。
これはストレスの多い外の世界で戦って帰宅し、疲れをいやすために自分の世界に浸っているのです。
アスペルガーの人は刺激に敏感な部分もありますし、ストレスにも弱い傾向があるので、睡眠を異常に取ったりもします。
心と脳を休ませるための行動なんですね。
ただ、アスペルガーではない人は、普通はこんな風な行動は取りません。
人に愚痴を話したり好きなものを食べたり、お風呂につかったりして疲れを癒すのが一般的です。
そのためパートナーがよく分からない行動を家で取っていると、どうして良いのか分からなくなるものです。
言葉をそのままに受け取る
これはよく起こるすれ違いです。
「ほっといて!」と言ったら本当にほっとかれるという定番のやつです。
いや、これは本当によく相談があるんですが、アスペルガーの人はパートナーの人が「ほっといて!」と言って外に飛び出しても、絶対追ってはきませんよ。
追ってきたとすれば、それは「覚えた」ということです。
過去の経験で学んだので「追いかける」という行動が取れているだけで、基本的には「追いかけないで良い」と思います。
だってそう言ったんだし・・・と。
だけどパートナーからすると寂しいわけですよね。
「心配じゃないの?」と感じるわけです。
このように、アスペルガーの人と一緒の時間を過ごす場合、「分かってもらえない」「慰めてもらえない」という心理黄な支えのなさや寂しさを感じやすいです。
そして大事なのは、
この感情を周囲や配偶者に理解してもらえないことからくる孤独感がより一層その人を追いつめるのです。
「男(女)なんてそんなもんだよ」
「みんな配偶者に不満はあるよ」
「大げさだな」
パートナーのことを誰かに相談してもこんな言葉が返ってきてさらに傷つくのです。
アスペルガー症候群は障害です。
アスペルガーの人と結婚した場合、「普通の」夫婦関係をもとにしたアドバイスでは解決できないことはたくさん起こります。
「みんなそうだよ」ではないわけです。
さて、ここまで書くとアスペルガーの人と一緒にいるのはとっても大変で悲しい思いをたくさんしないといけない・・・
と感じられたと思います。
誰かと一緒にいるのは相手がどんな人でも「大変」で、「悲しい思いをたくさんする」こともあるものですが、アスペルガーは障害なので、その障害の特性を理解した上で付き合い方を工夫する必要があります。
そうすれば少し大変さが減ります。
ちなみに、私はアスペルガーの傾向を持つ人とは仕事上でもプライベートでもよく関わりますが、私は彼らのことが全員大好きなんですよね。
だから結局は、「アスペルガーの人と一緒になると悲しい思いをしてカサンドラ状態になる」わけではなく、
アスペルガーの人と一緒にいる時に出てくる悩みは、通常発達の人と一緒にいる時に出てくる悩みとはちょっと種類が異なるから、人から理解されにくいし、孤独感を感じやすい、ということなのだと思います。
カサンドラ症候群に陥らないために
さて、アスペルガーの人とのお付き合いでどんなことが起こるのか、一般的な例を見てきました。
次に、どのような関わりをすればアスペルガーの特徴を持つパートナーと楽しく過ごせるのでしょうか。
以下に見ていきましょう。
はっきりと具体的に言う
これです。
これは何よりも大事です。
「察して欲しい」というのはアスペルガーの特徴を持つ人にとっては、本当に難しいからです。
はっきりと「今日は疲れているから夕食作るの手伝って」「記念日に食事に出かけたい」「寂しいから抱きしめて」と伝えたほうが、お互い楽だと思います。
ちなみに「今日は早く家を出たいから準備して」というのも曖昧な言い方です。
「9:00には出発するから間に合うように準備して」というのが具体的な言い方です。
相手が疲れを取る時間を確保してあげる
自分の世界にひたり疲れを取る時間がアスペルガーの人は特に必要です。
1日30分でも良いのでマイペースに動ける時間を確保してあげると良いかもしれません。
その時間はあなたもゆっくり自由に過ごす、と決めても良いですね。
子どもの世話などでそんな時間がお互い取れない場合、子どもが寝た後に一人の時間を持つ、月に1度有給を取った時にはゆっくりとさせてあげる、など工夫が必要です。
相手に触る時には一言声をかける
感覚過敏の場合、触られると痛かったりとてもくすぐったかったりするので、いきなり抱き着いたりするとひどく驚かれます。
「手つなぎたい」「抱き着いて良い?」など声をかけるとスムーズに身体接触ができることは多いです。
理解できない部分はほっておく
先ほど少し書いた「よくわからない行動」については、ほっておくのが一番です。
その人なりの心の回復方法を尊重し、そっとしておいてあげましょう。
共通の趣味を見つける
地味ですがとっても大切です。
アスペルガーの人はとっても一途ですからね。
もしも同じものに興味を持てたら、その趣味を一途に追求しあい情報交換をしあい、二人の間に会話もでき、楽しい時間を過ごせます。
こだわりすぎたり、のめり込むとストップが効かない場合もあるので、「週末のみ楽しむ」と二人でルールを決めるとなお良いです。
情緒的な交流を求めるあなたへ
ここまではアスペルガーやカサンドラの説明や工夫の仕方を紹介していきました。
カサンドラ症候群を語る上ではずせないのが、「パートナーと情緒的な交流を持てないことに寂しさを感じる」という部分です。
では、情緒的な交流とはどのようなものを指すのでしょうか。
「一緒に見た映画の感想を語り合う」
「抱きしめ合って手をつなぐ」
「お互いについて語り合いお互いを受け止める」
「討論、議論をかわす」
「デートをする」
「交換日記をする」
「好意を伝え合う」
まだまだありますよね。
まず、情緒的な交流の意味は人により異なる、ということは大切な部分です。
以前カサンドラ状態の女性が、アスペルガーの男性に情緒的な交流が持てないことを冷静な態度で伝えた、ということがありました。
そしたらアスペルガーの男性は「え?あんなにしてるのに?」と答えたとのことでした。
カサンドラの女性はびっくりしてしまったわけですね。
よくよく話を聞くと、女性の情緒的交流のイメージは、旦那さんに抱きしめられて頭をなでられ、2人で好意を伝え合う、といったものでした。
しかし男性のほうの情緒的交流のイメージはそれとは異なりました。
男性のイメージでは、一緒にゲームをした後にジュースを飲みながらごろごろする、といったものだったのです。
確かにその男女は、よく一緒にゲームをしていたようです。
そのため男性のほうは関係に満足しており、女性は寂しさを感じていたということです。
まあ、これは非常にうまくいったケースですので、実際は上手くいかないことだらけだと思います。
でも、実は相手は言葉にしないまでも、情緒的なつながりを感じてくれているかもしれません。
アスペルガーの傾向があると、愛情表現や情緒的な交流が、一般的な大人の思うそれと内容が異なることが多いので、それに気づいていなかったという場合もあるのです。
この感覚のずれがアスペルガーの人と夫婦になる上で最も難しいことなのです。
アスペルガーの人は情緒交流を持てないわけではなく、人と違うかたちで表現するので、こちらは理解しにくく、またこちらが理解できないことを相手は察することができない、という部分もあるんだと思います。
私は以下のことをカサンドラ状態の方へおすすめすることが多いです。
・自分が相手に求めていることを3つ書き出す(EX,1日10分私の話を聞いて、私が泣いている時はゲームをしないで欲しい、私が体調を崩したら食べやすい惣菜を買ってきて欲しい)
・相手に求めている3つのことが無理なことでなければ、簡潔にはっきりと伝える
・客観的な状態を知るために日記をつける。感情面も書いても良いけど、客観的な事実も書いていく
・中立的な立場の人とあなたの味方である立ち場(友人)の人の相談相手を見つける
前者は問題の解決のため、後者はあなたの心の安定のため
とにかくまずは、はっきりと簡潔に伝えるだけでも、お互いの勘違いからくるイライラは解消されます。
そして甘えたい時は甘えたいと伝えることも良いことですね。
カサンドラ状態は孤独で苦しいものです。
でも一人ではありませんよ。
誰かに吐き出して支えてもらった上で、元気を取り戻してから配偶者と今後どうしていくのか考えてみると良いと思います。