学校の先生、子育て中のご両親、スポーツチームのリーダーの方・・・
何かを指導したりする立場の方は「どうやったら相手のやる気を引き出せるんだろう」「自信をなくしている人を元気づけたい」「だらけている人を指導したい」などの悩みを抱えておられるかもしれません。
人間は不安定な生き物なので、モチベーションが高い時期もあれば、まったくモチベーションが上がらない時期もあります。
それを自分で色々と工夫して気持ちを高めていくわけですが、周囲の人の声掛けに助けられることもあります。
今日は相手に対してどのような声掛けをすれば、相手のやる気を引き出したり、自信をつけてもらえるのかについて考えていきます。
コミュニケーションの悪循環を知ろう
まず、相手の人がどのような思いなのかを理解することは大切です。
例えば、糖尿病患者さんを例に挙げてみましょう。
糖尿病は食事制限やインスリン注射など、日々の生活で気を付けないといけないことがたくさんあります。
そしてそれは一生継続するもので、その心労はかなり大きいものがあります。
精神疾患を抱える方も、生涯服薬を継続したり、心身の調子を整える必要があり、共通する部分はあります。
このような患者さんが下記のように話したとします。
「もう食事制限はやめました。人生一度きりですし、食べたいものを食べて幸せに生きた方が良いので」
このように話した時、この方はどのような気持ちなのでしょうか。
・本当に一度きりの人生、好きに食べて好きに行きたい、と前向きに考えている
・毎日の食事制限に疲れて、投げやりになっている
・治療の必要性をあまり感じない。自分はそこまでひどい病気ではないと思っている
・身体の不安はあるものの、食事制限のモチベーションが維持できない
これらは例ですが、「食事制限はしない」という言葉にも、背景の気持ちは色々とあり、相手がどのように思っているのかを知ることは第一に必要なことです。
そして私たちがどのように感じるかも自覚しておく必要があります。
食事制限が必要な糖尿病患者さんが、食事制限をやめる、と宣言した時、私たちはどんな気持ちになりますか?
・食事制限をしないと血糖値が安定しなくなる
・糖尿病は上手く付き合える病気だ
・食事制限でも楽しくできる方法はある
・病気が悪化すると大変なことになる
こんな風に感じませんか?
つまり「正論を言いたくなる」ことはとても多い、ということです。
糖尿病の患者さんであれば、食事制限をしなくなるとどうなるかは十分に分かっていることがほとんどです。
それでも「食事制限をしたくない」と思っているわけです。
そして私たちはそれを受けて「正論をぶつけたい」という衝動にかられるのです。
これがコミュニケーションの悪循環です!
ダイエットを例に考えてみましょう。
ダイエットは時間をかけて行うものなので、モチベーションの維持が重要ですよね。
毎日運動をして栄養バランスに気を付けて食事をする・・・
でもついつい頑張りすぎたストレスでお菓子とジュースを暴食してしまう・・・
ダイエットあるあるです。
ダイエット中の暴食に落ち込んで「もうダイエットやだな・・・」と弱音を吐いてしまうことは誰にでもあることです。
こんな時に
「え?ダイエットやめたの?また続かなかったの?」
「おやつを食べたいならヨーグルトとかゼリーにしたら?」
「よく噛んで食べないからお腹が空くんだよ」
「ふーん、じゃあやめたら?」
なんて声をかけられたらどうでしょうか?
うるさーい!!!!!!
ってなっちゃいませんか?(笑)
そうなんです。
私たちはやらないといけない、本当は頑張りたい時でも、ついつい「もうやめる」「必要ない」「無理」と言ってしまうのです。
それが本音の場合もありますが、そうでない場合もあります。
本音じゃない時に、正論を言われたり怒られたり見捨てられたりすると、ほんの少しだけ残っていたやる気は根こそぎなくなってしまうわけです。
まあ、八つ当たりと言えばそうなんですが(笑)
でも、もしあなたが相手のモチベーション維持を応援しているのであれば、このコミュニケーションの悪循環は良い手段ではありません。
声掛けの工夫で、相手の良き応援団になることも可能なのです。
相手のやる気を引き出す声掛けとは
では、相手のやる気を引き出す、モチベーションを維持する声掛けとはどのような声掛けがあるのでしょうか。
詳しく見ていきましょう。
・ポジティブな部分に焦点を当てる
例えばあなたが所属しているスポーツチームのチームメイトがこんなことを言ったとします。
「もう歳だしそんなにスポーツ頑張るのもなあって。だんだんしんどくなってきたし、やる気が出なくなっててね。好きな気持ちはあるんよ。筋トレも続けてるし。でも学生の頃のようにはいかないよなあ」
このような場合、色々な返答があると思いますが、ポジティブなことに焦点を当てるのは一つの方法です。
例えば以下のような返答です。
「へえ、筋トレは続けてるんだ。好きな気持ちはあるんだね」
チームメイトは、学生の頃のようにスポーツに夢中になれない、時間を取れないことを語るわけですが、そんな中でも「筋トレをやっている」「好きなきもちはある」というのはポジティブな部分です。
そこに焦点を当てることで、その後の会話も前向きなものになりやすいのです。
ただ、あまり毎回ポジティブなことばかり拾ってしまうと、弱音が吐けなくなるのでそこはうまーい具合に調整してくださいね。
・揺れる気持ちに焦点を当てる
例えばアルコール依存症の患者さんがこんなことを言ったとします。
「酒をやめないといけないことは分かっています。でも娘の結婚式にも飲めないんですか?酒の怖さは分かったけど、週に1回の楽しみもないのは味気ないじゃないですか。もちろん前みたいに飲むのはまた入院することになるし、迷惑もかけるしね。でも一生飲めないのもなあ・・・」
この場合、揺れる気持ちに焦点を当てるとなるとどのような返答になるでしょうか。
例えば、
「お酒はやめようという気持ちはあるし、でも一方で一生断酒するのも物寂しいと感じておられるんですね」
などの返答があります。
人は誰でも「〇〇しないといけないのは分かっている」「でもしんどい気持ちもある」という相反する2つの感情を抱えているものです。
「彼は浮気性で借金もある。別れないといけないことは分かっているけど、でも好きなんだ」
「試験勉強をしないといけないけど、どうしてもやる気が出ない」
「練習に行きたいけど、仕事終わりにはばてちゃって寝てしまうことが多い」
などなど・・・
そんな気持ちは誰にでも起こるものですよね。
その「揺れる感情」に触れてあげるだけで、「そうそうそう!そうなの!」と腑に落ちる、ということはあるものです。
・自発性を促す
人に「やれ」と言われてやるのより、自分で「やる」と宣言してやったほうがモチベーションの維持はしやすいです。
禁煙なんかそうですよね。
いくら人に言われてもやめられません。
自分でやろうと思って始めて継続ができるのです。
例えば年中ダイエット中の奥さんがこんなことを言ったとします。
「やっぱり歳を取ると代謝が落ちるしね。子どものご飯食べさせたりしてたら自分は早食いになっちゃうし。運動する時間も全然ないしねー。まあ、この歳で痩せて今更って感じだしね」
こんな時に「いやいや、〇〇ちゃんのお母さんは子ども3人もいるけど綺麗な体型だぞ!」なんて絶対言ったらダメですよ!(笑)
例えばこんな言い方があります。
「そうなんだー、じゃあ痩せる必要は全然ないって感じなんだね」
これ言われると結構「え!?」ってなるんですよねー。
「いやいや、全然ないってことはないよ?ズボンも入らないし健康のためにもあと5キロは痩せた方が良いよ?」
「あ、痩せたほうが良いんだ」
「いや、そりゃそうだって!でも痩せられないの!」
「代謝も落ちたし時間もないからかー、痩せたいけど痩せられないんだね」
「うん、まあ・・・代謝も上げていく方法はあるんだけどね」
「え?そうなんだ」
「そうそう。やり方はね・・・」
こんな風に相手の言葉を「少し大げさに」返す方法があります。
アルコール依存症の治療の必要性を感じていない人に、
「治療はまったく必要ないって感じなんですね」なんて言うと、
「え?いや、まったくっていうわけじゃないですけど・・・」
と少し冷静に考えることができ、自分の言葉で「できないわけじゃなくて・・・」と葛藤を語ることができるのです。
まとめ
相手のやる気を引き出すために、「ポジティブな部分に焦点を当てる」「揺れる気持ちに焦点を当てる」「自発性を促す」会話法を紹介しました。
ただ大切なのは、これを使えばすぐに相手がやる気になってくれる、というわけではなく、相手とのコミュニケーションの悪循環を起こさず、相手を応援できる声掛けをする、ということです。
相手と仲良くしながら、相手の気持ちを受け止めつつ応援をしていく、そのためにこのような技術を使うことができる、ということです。
大切な人を応援する時に、ぜひ使ってみて下さいね。