いじめが原因の自殺や殺人が起こることがあります。
それだけいじめられる、というのはその子どもの心に多大な外傷を負うのだということが分かります。
学校現場だけではなく、会社など大人の社会でもいじめは起こります。
今日は学校現場のいじめについて書いていきます。
いじめの定義
いじめは文部科学省によって以下のように定義されています。
自分より弱いものに対して、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもの。
起こった場所は学校の内外を問わない。
いじめには様々なものがあります。
無視をする、服を脱がすなどの心理的な苦痛を与えるもの、殴る、蹴るなどの暴力、果ては多額な金銭を要求したり、集団リンチをしたりするなど、大人も驚くような重大犯罪も起こります。
学校はある意味閉鎖的な空間であり、特に子どもたちの世界は教師や親が入らない人間関係があります。
現代社会では、ネットに非難中傷を書き込む、ライングループで悪口を言い合う、などの昔はなかったいじめも出てきています。
いじめを受けている時は、孤立していることが多いので、誰かに相談をできない場合がほとんどですが、ネットでの書き込みなどは、誰がやったのかが分からず、疑心暗鬼になりSOSをさらに出しにくくなります。
いじめの研究
いじめに関しての研究は様々なものがあります。
いじめ被害者に焦点を当てたものだと、いじめによって傷つけられた心をどのように癒していくのか、いじめからどのように守っていくのか、などを調べていくことが多いです。
しかしいじめの被害者だけではなく、直接的にいじめを行う加害者、直接的なことはしなくても見て見ぬ振りをする傍観者の立場に焦点を当てた研究も多くされています。
いじめを未然に防ぐ取り組み
このようないじめの研究結果から、いじめ加害者は高ストレス者が多く、家庭内が上手くいっていない、など、加害者自身も苦しんでいる環境にいる場合が少なくないことが分かりました。
自身の苦しみを学校内の弱い立場の人間にぶつけた結果、いじめが始まることは、実はとても多いのです。
このようなことから、学校内にいるスクールカウンセラーなどが、児童全員に対してストレスマネジメントを行う取り組みがなされています。
教育現場での心の支援については以下の記事を参照してください。
仕組みを書いています。
未然に防ぐ取り組みと言えば、「1次予防」になるので、様々な不適応のリスクの高い生徒だけではなく、すべての生徒に向けて行われます。
ストレスチェックを行い、高ストレスの生徒をスクリーニングすることももちろんですし、すべての生徒に対してストレス対処法を伝える「心理教育」の時間を設けます。
そして悩みがある時の相談場所を伝えることも行います。
生徒たちに①ストレスはある程度自分で低くすることができる、②学校は安全な場所であり、学校にいる大人はみんなの保護者と協力してみんなを守っていくことができる、ということを伝えていくのです。
ストレスが高いまま誰にも相談できないでいると、いじめや非行などの相手や自分を傷つける発散を行なったり、心のバランスが崩れて調子を悪くしたり、何も良いことは起こりません。特に身体が急激に発達する思春期の生徒は心の揺れも激しいので注意が必要です。
またストレスマネジメントだけではなく、「アサーショントレーニング」なども行う場合もあります。
クラスメイトに対して、自分の意見が言えなかったり、つい乱暴な言い方になってしまうこともあると思います。
そのようなコミュニケーションスキルが不足していることが原因で、クラスから孤立したり、自分はそのようなつもりはなくても相手を傷つけてしまったりすることが起こります。
アサーショントレーニングは、相手も自分も大切にするコミュニケーションの基本を学ぶものです。
教科教育だけでなく、コミュニケーションのスキルを学べる機会を作ることが、学校生活やその後の生活の困難を助けてくれる場合もあります。
いじめはまず「未然に防ぐ」ことが重要となります。
そのために、ストレス対処法やアサーショントレーニングなどを心理教育で伝えていくのですね。
いじめが起こったら
では、実際にいじめが起こったらどのようにしていくのでしょうか。
学校によって対応に差はありますが。周囲の大人は「いじめは絶対に許されないこと」と明確に生徒へ伝えることは第一に重要です。
その上で、いじめ被害者への支援と、いじめ加害者への支援を行います。
いじめ被害者は深く傷ついていることがほとんどなので、まずは安全感を取り戻すために、保護者・教師・スクールカウンセラーなどが、「あなたのために手助けをしたい」「あなたの安全を守りたい」と伝え、本人の希望を聞いた上でどのように支援を行うのかを話し合います。
いじめられた被害者がすぐに学校に復帰をしたいのか、しばらく保健室登校などをしたいのか、同級生が怖くておびえているのか、勉強が手につかなくて困っているのか、本人のニーズを尊重し、いじめの再発を防ぐとともに、本人の心・環境のケアを行うことが重要となってきます。
そしていじめの加害者へも大人たちの包括的な支援が必要となります。
いじめの加害者が以前はいじめ被害者だった、家庭内で重大な問題が起きている、発達障害などの疾患・障害が背景にある、などいじめ加害者も心理・社会的な支援を必要としている状態であることは少なくありません。
いじめは許されることではない、という姿勢は崩さず、あなたが今後健やかな成長をするために、周囲のことも自分のことも傷つけない対処が取れるように、大人はみんな協力する気持ちを持っている、ということを伝えます。
そして学校全体でもいじめ再発予防のために、道徳や心理教育の時間を利用し、すべての生徒が安全に学校に通う権利があること、自分の安全が脅かされれば助けを求められること、などを伝えていきます。
いじめの影響
いじめは被害を受けた生徒はもちろん、周囲の生徒、保護者、教師、そしていじめ加害者である生徒の心にも大きな影響を与えます。
発達途上にある子どもは、心に受けた影響を癒せぬまま大人になると、自分に対して自信を持てない、社会に出るのが怖い、誰も信用できない、などの思いを一生抱え続けることになります。
特にいじめ被害者は、いじめがきっかけで引きこもりになったり、社会に適応できなくなることもめずらしくありません。
関わったすべての生徒が、正常に発達することが困難になる事態、それがいじめなのです。
学校という閉鎖的な空間では、このいじめは頻繁に起こります。
いじめは絶対になくならない、などの意見もありますが、だからと言って放置して良い問題ではありませんよね。
教師・心理士・保護者などの多職種の大人たちが、児童生徒を守っていく、成長を応援していく、という姿勢を、児童生徒に伝えていくことは、多少であってもいじめを予防し、起きてしまったいじめに対応する力になると思います。
おわりに
いじめはまずは未然に防ぐこと、早期発見を行うこと、発覚すればいじめ被害者の安全を確保しケアすると同時に、いじめ加害者や周囲の生徒への支援や指導を行うことが重要です。
学校が児童生徒たちにとって、心身ともに健やかに成長できる場所であることを心から願っています。