以前一般の方でも分かりやすい心理学の書籍を教えて欲しい!とコメントをいただきました。
リクエストありがとうございます。
心理学に興味を持っていただけることが何より嬉しいです。
心理学でも「何を知りたいのか」によっておススメの書籍は変わってきますが、今日は色々な心の問題を知ることができる漫画を紹介します。
健康で文化的な最低限度の生活
柏木ハルコさんの漫画で「健康で文化的な最低限の生活」です。
新人ケースワーカーの目線で生活保護のリアルな姿をうつしだす青春漫画です。
新卒のケースワーカー、義経えみるは福祉事務所生活課に配属されます。
生活課とは、生活保護受給者の方の相談に乗る場所なので、とっっっても大変な課です。
生活保護受給者の方の相談に乗る、と一言で言っても、例えば病院の診察室で会う、カウンセリングルームで会う、とは異なり、その方の生活圏に入っていく必要があるのです。
そんなとっても大変な課に配属された新人ケースワーカーえみるさんは、様々な対象者との出会いで、自身の感情も強く揺さぶられながら、自分の仕事とは、福祉とは何なのかについて考えていきます。
健康で文化的な最低限度の生活の見どころは?
生活保護受給者の方は、精神、身体疾患、精神、身体障害を抱えている方もいますし、家庭の状況も複雑な方もいらっしゃいます。
自身の状況を何も説明できない方、家族はいても虐待などの過去があり、生活保護を受けなければならない状況にいる方、非常に暴力的な方、など本当に様々な方がいます。
主人公はまだまだ新人のケースワーカー。
知識も経験も浅いので様々な困難に直面します。
ここのブログでもよく扱う、アルコール依存症のケースも出てきますが、完成度が高くて驚きました。
アルコール依存症の方が、最初は自分がアルコール依存症だと認められない「否認」の時期や、アルコールをやめるのは意思の強さがあればできる、と思ってしまう特徴など、とてもリアルに描かれています。
また自助グループの重要性も分かるようエピソードが組まれていました。
その他にもうつ病や虐待のケースなども取り扱っていて、精神疾患や社会問題がとてもよく理解できます。
もちろん漫画なので現実とは違う場面もありますが、病気、障害、閉鎖的な家庭環境などをリアルに描いておられます。
私たち援助職が、知識と経験に助けられる時もあれば、知識も経験もまったく役に立たない時もあること、その方の役に立つ援助ができ、その援助を続けられる場合と、本当にもう「祈るしかない」という場合もあること、そんな揺れながら成長する援助者たちの心の動きも面白いですよ。
生活保護を社会の闇にしない
生活保護の不正受給など、問題になることがよくあります。
この漫画の題名でもある「健康で文化的な最低限度の生活」とは、いったいなんなのか、そんなのは人によって考えが違うのではないか、という問題もあります。
「生活保護でパチンコに行くのはおかしいのではないか?」
「生活保護だと子どもがやりたい習い事をさせられない」
「仕事をしても生活保護費とそれほど変わらない」
このようなことについて、ただ単にネットなどでよく見るように、批判をする、ではなく、自分自身の意見を持てるようにするためには、どうすれば良いのでしょうか。
まずは情報を知り考えることが一つ挙げられます。
生活保護受給者には、本当に働けなくて一時的に生活保護を受給し、その間に就職をするための準備や訓練をしている人もいます。
働く予定がなくても、精神的・身体的に働くことが困難で、生きていくために生活保護を受給している人もいます。
その一方で、一部分ですが不正受給が行われている場合もあります。
生活保護の受給できる金額は、その方が住んでいる地域で最低限の暮らしができるよう計算されます。
そのため家族構成や住む地域によって金額は異なりますし、お金がその方に渡ればお金の使い道はどのような使い道なのかは分かりません。
真面目に生活のために切り詰めて生活保護を使用している人もいれば、遊びに使う人もいます。
そもそも「最低限度の生活」とは何なのか、この基準は明確ではありません。
そのような曖昧さが、周囲の怒りを生み、偏見に繋がっているようにも思います。
この漫画は、人々の「健康で文化的な最低限度の生活」とはいったい何なのか、その答えは出ませんが、そのことを考えていくきっかけにもなる本だと思います。
生活保護を社会の闇にせず、どんどん知っていき、自身で考えた意見を持つことは、社会に関心を向けることであり、とても大切だと感じます。