アルコール依存症の回復過程では様々な困難が生じます。
よく「アルコール依存症のなれの果てはどうなる」と聞かれることがあります。
予後についてはみなさん気になられるようです。
アルコール依存症の連続飲酒と断酒
どの程度飲酒をしていたか(量や期間)や、家族が治療に協力してくださるのか、どのような治療を選択するのかによって予後は異なりますが、お酒に関してコントロールができない、というのは生涯続きます。
依存症の怖いところは、10年20年という長い年月依存対象を断っていても、一口お酒を飲むだけで、一度ギャンブルをするだけで、少量薬を飲むだけで、一瞬でもとの「病気」の状態に戻ってしまうことです。
よく「アルコールをやめるのは簡単だ。難しいのはやめ続けることだ」と言われています。
長年断酒をしていても、一口飲むだけでアルコールへの依存は高まり、再び酒浸りの毎日に戻ってしまうのです。
そして「連続飲酒」の状態になってしまうともう自分では止められません。
連続飲酒とは、文字通りお酒を気絶するまで飲み続け、目が覚めるとまた飲む、を繰り返している状態です。
飲酒以外のことは何も考えられず、食事も摂らない、外出もしない、ひどい場合は排泄すらトイレでできなくなります。
こうなると入院しか手はありません。
入院しお酒を抜いて、離脱症状への身体的ケアが絶対に必要です。
しかしこのような連続飲酒の状態は、治療を受けていても何度でも繰り返します。
そのようなこともあり、もともとアルコール依存症の治療は「断酒」が絶対条件でした。
断酒をするために抗酒剤や医師の診察、自助グループ、心理カウンセリング、デイケアなど、様々な手段を用いていました。
もちろん今でも「断酒」はアルコール依存症の主流な治療目標の一つです。
しかし・・・
それではどうしても救えない人もいるのは事実です。
やめられないんです、どうしても。
「やめられない」のか、「やめたくない」のかは分かりません。
意識では「やめたい」と思っていても、心の奥底でお酒への未練を断ち切れない人もいます。
本気でやめたいと思っていても、どうしてもやめられない人もいます。
断酒という選択肢は一番安全で確実ですが、今はそれ以外の選択肢もできつつあります。
節酒という選択肢
それが「節酒」です。
節酒とはお酒を飲む量を決めて、コントロールしながら飲む、という方法です。
お酒を飲まない休肝日を決めたりもします。
もともとは、アルコール依存症の「リスクが高い」人たちを対象に、心身への影響を最小限にするお酒の飲み方を考え、援助する、というものでした。
この考えは「ハームリダクション」と呼び、近年のアルコール依存症治療では重要な考え方です。
節酒は原則、アルコール依存症の軽症患者様や、アルコール依存症になる前の高リスクの方たちにのみ効果が出るものです。
アルコール依存症の症状が重症化している方たちにとって、節酒はものすごく難しいです。
それは先ほど書いた、アルコール依存症は「コントロールの病気」だからです。
最初はお酒を少なめに飲んでいても、どこかで必ず破たんします。
連続飲酒の状態になります。
それがアルコール依存症の症状だからです。
それでも、「このまま飲み続けていると確実に命を落とす」という方たちに、「命を守る」ための節酒の選択肢が、今は選択できるようになっています。
節酒に失敗しても、少しでも減らせている時間を作る、一日でも休肝日を作る、重症化したら入院などの手段を用いるけど、回復したらもう一度節酒を試す、失敗もありきで。
このような考え方で治療に繋がる患者様も増えてきたのは事実です。
アルコールをやめるのには抵抗があるけど、今のままでは身体に良くないことは分かっている、という方は節酒を選択される方もいます。
節酒の方法
節酒の方法は様々です。
休肝日と決めた日のみ、家族に協力してもらい声掛けをしてもらいながら、抗酒剤を服用する、という方もいます。
抗酒剤については下記の記事をご参照ください。
アルコール依存症で節酒を選択された方対象の心理教育プログラムもあります。
満腹になるとお酒があまり入らなくなるので、まずは食事をたくさん食べてから飲酒をする、という方もおられます。
飲酒欲求を抑制する効果があると言われている「レグテクト」という断酒補助剤を服用する方もおられます。
「節酒日記」を使う人もいます。
毎日飲んだお酒の量と種類を記入し、定期的に主治医やカウンセラーと確認をし合う方法です。
どのような方法で行うかはそれぞれですが、節酒という道にも支援は行われています。
最近ではアルコール依存症の治療には、「断酒」「節酒」という道があるということです。
お酒のない人生を選択するのか
さて、ここで大切なのは「何を選択するか」です。
アルコール依存症の方にとってお酒は「すべて」です。
これまでは家族や友人、仕事や趣味など、大切なものはたくさんあったと思います。
それがアルコール依存症になると、アルコールに勝るものは何もなくなってしまいます。
アルコールを飲むことしか考えられないし、興味が持てなくなります。
そのような中での治療は、当然「生活に根差した」治療になります。
家族に協力してもらい、趣味をもう一度楽しみ、新しい趣味や友人を見つけ、自分のペースで仕事をする、そんな「生活」をベースに、医療機関に繋がり続ける、というのが非常に重要です。
だからこそ、自分で治療法を選択し納得することが治療効果に影響するのです。
「断酒が治療では絶対、それ以外は認めない」
ではなく、その方が自分の人生を考える上で、今後お酒とどのように付き合うかを選択していきます。
私たちはその選択を応援する立場なのです。
アルコール依存症のなれの果ては??
最初の質問に戻りましょう。
「アルコール依存症のなれの果てはどうなるのか」
「予後はどうなのか」
みなさんはどう思われますか??
アルコール依存症の方にとって、断酒をするか節酒をするか、もっと言えば「治療をするのかしないのか」は、今後どのような人生を送るのか、を考えることでもあります。
お酒なしの人生なのか、お酒を減らすことで身体へのダメージを減らすのか、治療をせずに飲み続けるのか。
私たちは治療に何とか繋がれるように、治療を続けられるように最大限関わりますし、アルコール依存症は命を落とす病気なことも広めていかなければいけません。
治療を中断しても、その後に再開できる道を常に用意しておく必要もあります。
それでも選択するのはその人です。
何が幸せなのか、何に納得するのかは誰にも決められないのです。
アルコール依存症の治療者は非常に積極的な治療者が多く、自助グループの方とのかかわりも密なことが多いです。
患者様にも積極的に治療に繋がれるよう声掛けを行います。
だけど治療の内容はその方の意思がとても大切だということをみんな理解しています。
断酒が一番安全であることは伝えつつ、「あなたの目標は?」と目標を一緒に決めていくことに大きな意味があります。
おわりに
いかがでしたか?
アルコール依存症の状態は非常に過酷で、家族や本人だけで抱えてしまいがちな問題です。
誰にでもなる可能性のある精神疾患であることを多くの人が認識することで、治療に繋がる可能性も高くなります。
あなたは飲酒をしますか??
その量は適切な量でしょうか??
一度家族の中でも話題にしてみても良いかもしれません。