この病名を聞いたことはありますか?
いわゆる「ボーダーライン」と呼ばれる人たちです。
境界性人格障害は今は一般の方にも認知されている精神疾患ですが、正しい知識はどうやら普及されていないようです。
人格障害はめんどくさい
どうせ注意引きをしている
メンヘラ・・・
そんなイメージが浸透しているような気がしています。
今日は境界性人格障害、ボーダーラインについてお話をします。
【境界性人格障害のイメージは?】
精神疾患には一種の流行があります。
一昔前は「境界性人格障害」いわゆる「ボーダーライン」が非常に流行しました。
その前は「解離性人格障害」いわゆる「多重人格」が一世を風靡しましたね。
解離性障害関係の本、映画、ドラマなどが一気に増えて、患者の数も増大しました。
今は「発達障害」が注目をあびています。
このような流行が起こると、研究も進みますので、医療に繋がれる患者は増えます。
そうすると自然と救える患者様も増えていきますし、世間への認識も広がります。
それは良いことなのですが、正しい知識はなかなか広まりませんし、精神疾患の中には、「他者の症状を自分の症状かのように認識してしまう」という特徴を持つ人もいます。
メディアなどであまりに派手に紹介されすぎると、「私もこの病気なのかも・・・」と思い違いをしてしまう場合もあります。
特にメディアなどでは、その病気の「派手」な部分に焦点を当てがちです。
例えば解離性障害でも、多重人格(正確にはこうは呼ばないのですが、便宜上)、一人の人間の中に他にもたくさんの人格があり、他の人格が動いている時には自分には記憶がない、という状態の方はほんの一握りです。
「そんな人はいない」
と言っているわけではありません。
多重人格の状態にある方は確かにいらっしゃいます。
ただ本当にごく少数の方のみに起こる(あるいは気づく)もので、解離性障害の本質は、また別のところにあるのですが、時間に限りのあるテレビなどでは、細かい部分はどうしても放送できず、それを見る私たちは偏った知識を持ってしまいがちです。
境界性人格障害、ボーダーラインの方も、症状の派手な部分のみ取り上げられ、何だか「めんどくさい人」などのイメージを持たれているように感じます。
境界性人格障害の症状については後ほど述べますが、まずは私自身のイメージを述べておきます。
私は境界性人格障害の方は、自分の人生、命をかけて自分の存在を他者に認めてもらおうと(認められたという感覚を得ようと)、もがいている人たちだと思います。
注意引き行動などは確かにあります(これも後で詳しく述べますが)
でも「めんどくさい人」と感じたことはありません。
これは私が面接室という、守られた環境で限定的にお会いしているから、という条件は大きいですが、それにしても、です。
注意引き行動ってされる側は非常に大変な思いをしますが、する側も結構しんどいと思うんですよね・・・
だって夜中に出て行ったり、自分を傷つけたり、他者を自分に引き付けるために多大なエネルギーを使うわけですからね。
それでもやめない。
まさに命がけだな、と思うわけです。
【境界性人格障害の特徴】
では、ここで一度境界性人格障害の特徴をまとめてみます。
・人に見捨てられることを強く恐れ、不安を抱いている(見捨てられ不安)
・対人関係の変動が激しく不安定。
・気分や感情が激しく変動する
・感情を抑えることが難しく、ささいなことでも激しく怒り、傷つきやすい。
・自殺をしようとしたり、自傷行為を行う
・日常の小さなことに幸せを見出すことが難しく、空虚な様子
・自分は何者なのだろうか、という感覚を持っている(アイデンティティの問題)
・強いストレス時に、一時的に精神病的症状が出現することがある
さて、このような激しい症状を持つ境界性人格障害ですが、原因論や治療法は様々なものが提唱されています。
まずはこの症状のなかで誤解されやすい部分を説明します。
境界性人格障害は、ささいなことでも「感情を抑えることが難しく」、「見捨てられ不安」が強いので、他者にしがみつく傾向があります。
このような症状を見ていると、「性格の障害」「人格の病気」「認知のゆがみ」と勘違いされます。
しかし、境界性人格障害の方の問題は「性格」でも「人格」でも「考えかた」でもありません。
この方たちの大きな問題は、「行動」にあります。
私たちは嫌なこと、悲しいことがあった時でも、その感情を自分の心の中である程度は処理することができます。
処理しきれなくても、その場でいきなり爆発することはめったになく、一度は我慢して、その後に誰かに愚痴を言ったり、カラオケで発散したり、自分の心の中から嫌な感情を出していきます。
これは健康的な感情の処理の方法です。
しかし境界性人格障害の人はこれが難しいんです。
嫌なことや悲しいことがあれば、その感情をすぐに行動に表してしまう。
感情と行動が直結しやすいのです。
喧嘩をして怒りを感じる→飛び出す
辛いことがある→自分を傷つける
という具合です。
不快な出来事を心の中で自分で処理する力は人により異なります。
境界性人格障害の方は、不快な感情を抱える力が弱いのです。
だから行動化して、不快な感情を外に出そうとします。
そして「見捨てられ不安」が強いことから、他者に心配してもらえるかどうかを、試してしまうのです。
「この人は本当に自分を心配してくれているのか?」
「何をしても自分を見捨てないのか」
を確かめようとします。
だから行動が激しいものになってしまうんですね。
そして「小さなことに幸せを感じられない」というのも、境界性人格障害の方が人生を歩むのに困難を感じる原因の一つです。
私たち人間は、激しい出来事に対して心が強く動きます。
・激しい喧嘩
・ロマンチックな出会い
・激しい自傷行為
・強く怒られたり強く抱きしめられたりすること
出来事の内容が良い内容でも嫌な内容でも、激しい出来事には心が動くんです。
一方で、「ご飯がおいしい」「手をつないで歩く」「暖かい部屋でお昼寝をする」などの、日常の小さな喜びには、強く心が動くというわけではなく、ふとした時に「ああ、幸せだな」と感じますよね。
境界性人格障害の人は、見捨てられ不安が強いので、この日常の小さな喜びだけだと、満足したり、安心したりができにくいのです。
他者に怒られたり殴られたりした場合、嫌なコミュニケーションではあっても、相手が自分に強い感情を向けていることには違いはありません。
たとえその感情がゆがんだ感情であってもです。
そのような「強い感情」を向けられていないと、安心できないのです。
これは生きにくいですよね。
他者と良好な関係が築けない、または築いてもすぐに終わってしまうわけですから。
境界性人格障害の方が、とても優しい異性と交際し、「やっと幸せになれる」と言っていたのに数か月で別れる、というのはよく聞く話です。
もちろんここで紹介したのは一つの視点ですが、このように考えると、ただおもしろおかしく周囲を振り回しているわけではなく、不安で不安で仕方がない感情を、心の中で消化できず、行動で表現してしまう、という部分も知っていただけるかな、と思います。
【境界性人格障害の治療】
治療に関しては、人により異なる、というのは大前提です。
まずその方が何に困っているのかにより、何を目標にするのかが異なりますから。
しかし医師による薬物療法で不安を緩和したり、不眠を治す手助けをし(境界性人格障害の方は不眠の方が多いです)、医師や臨床心理士によるカウンセリングを行うのが一般的です。
その他にも安定した生活を送るために、デイケアや作業所などの選択肢を提供する場合もあります。
カウンセリングだと、精神分析療法という自分を見つめていく方法がもともと推奨されており、最近は認知行動療法などの考え方や行動を変化させていく方法を行う場合もあります。
とにかく根気強く、自分のパターンを理解しきちんと幸せになる道を考えていく、幸せになっても大丈夫なのだと理解していくことが大切です。
精神科が主な治療場所になります。
【おわりに】
いかがでしたか?
自分自身、周囲が境界性人格障害の場合、一人で悩んで苦しむより、治療の道の選択肢を知って欲しいと感じています。
また誤った知識で「めんどくさい人」と断定さず、正しい知識を知ってもらえることを祈っています。