依存症を治療するためには医療機関にかかりながら当事者や周囲が、生活の中で工夫をしていくことが重要です。
今日は依存症治療においてとても大切な「引き金」と「錨」について説明していきます。
【引き金】
引き金という言葉を聞いたことはありますか??
依存症治療のなかで「引き金」という言葉は非常によく使う言葉です。
引き金とは、依存物質、依存対象を使いたくなるきっかけのことです。
アルコール依存症であれば、アルコールを飲みたくなるきっかけですし、ギャンブル依存症であれば、ギャンブルをしたくなるきっかけのことです。
引き金には、「外的な引き金」と「内的な引き金」があります。
一つずつ説明していきます。
【外的な引き金】
依存対象や依存物質を使いたくなるきっかけのうち、自分を取り巻く環境の中にあるものを、外的な引き金と呼びます。
例えば…
・一人で家にいる時
・コンビニやスーパーでお酒が売っているのを見た時
・居酒屋の前を通った時
・パチンコ台で流れる音楽を聴いた
・給料日などのお金がない手元にある時
・飲み仲間、ギャンブル仲間などと会った時
・暑い、寒いなどの気温
などです。
つまり、このような状況だったら、お酒やギャンブル、薬物を辞めていても、ついついやりたくなっちゃうなー、
というきっかけのことを引き金と呼ぶんですね。
そしてそれが周囲の環境のなかにあるものであれば、外的な引き金となります。
【内的な引き金】
依存対象や依存物質を使いたくなるきっかけのうち、自分の内側にあるものを内的な引き金と呼びます。
例えば…
・寂しさ
・イライラやストレス
・不眠
・高揚した気分
・退屈感
・自信喪失
などです。
お酒やギャンブル、薬を辞めていたのに、イライラした時や寂しい時に飲んでしまう、テンションが上がってついついパチンコ店に入ってしまう、のような時には、内的な引き金がきっかけになって、再飲酒(再使用)につながっていると言えます。
さてさて、依存症治療ではまずはこの「引き金」を理解し、自分の引き金はどんなものかを把握することがとっても大切です!
【引き金を把握した後】
自分の引き金を把握した後は対処法を考えることが大切です。
まずは引き金を避けること!
外的な引き金はある程度は避けることができます。
いつも通る道によくお酒を買っていたコンビニや、よく行っていたパチンコ店があれば道を変えます。
一緒にお酒を飲んだりギャンブルをしていた友達とは一時的に距離を置くか、もうお酒やギャンブル、薬はしないことを伝え協力してもらう方法もあります。
不眠が引き金になる場合は、医師による適切な薬物療法をはじめ、日中の運動やリラクゼーションを行い眠りやすくする、なども工夫できそうです。
自分の生活の中で、なるべく引き金を避けるスケジュールを立ててみて下さい。
だけど…
避けられない引き金もありますよね??
給料日が引き金の人はどうするの?
ストレスは絶対たまるしストレス発散のために飲んでた人はどうするの??
飲み仲間とお酒を飲むのが楽しみだったのに!
こんな疑問がわきますよね。
そうですそうです。
避けられない引き金もたくさんあります。
むしろ避けられない引き金のほうが多いと思います。
避けられない引き金には「対処」や「工夫」が必要になってきますね。
以下のような工夫は依存症の方がよく実践しておられます。
・給料日には必ず、家族や依存症のことを理解してくれている友人と予定を入れるようにした
・ストレス発散の場を意識して作った
その際に「一人でできる趣味」と「友人とできる趣味」を作りそこを発散の場とした
・スーパーで買い物をするときには、最低限のお金しか持っていかないようにした
・ギャンブルを辞めるために、家族に金銭管理をお願いした
・自助グループに入り、相談し合える友人を作り、寂しさを少しでも解消した
・以前よく一緒に飲んでいた友達とは、昼間にランチをする、など会い方を変えた
・結婚式などの冠婚葬祭では運転手をし、飲酒ができない状況を作った
いかがでしょうか?
このように対処法や工夫を考えたり、引き金を避けるためには、まずは自分の引き金を把握することが大切だ、と理解できると思います。
さて、では次に、引き金と同じくらい大切な「錨」について話をしていきます。
【錨について】
錨とは依存症の治療で、引き金と同じくらい大切なものです。
錨とは自分が依存対象、依存物質を辞めているのに、ついつい再飲酒、再使用をしそうになる時に、「でも〇〇さんが応援してくれているから」「家族は裏切れない」など考え、思いとどまるためのきっかけをくれる人、者、環境のことを言います。
例えば・・・
・ギャンブルを辞めて1か月たつけど、ストレスがたまってきた・・・1回くらい行っても良いんじゃないだろうか・・・と思ったが、子どもや配偶者の顔を思い出し思いとどまった。その後配偶者に電話をして話を聴いてもらい、落ち着いた
・今日は給料日、たまのいっぱい飲むくらい良いんじゃないだろうか・・・と思ったが、両親が家に招いてくれていることを思い出した。アルコールの誘惑に負けそうだったが、両親にケーキを買い実家に行った。
・市販薬依存の治療をしているが、寂しくてしんどいからODがしたい・・・でも最近所属し始めたスポーツチームの練習が明日あるから、今日はなんとか我慢して明日の練習に備えよう
・毎日飲みたい気持ちを我慢している。その気持ちをブログに書き、断酒継続日数を記録することでモチベーションになっている
などのように、挫折しそうな時に自分を支えてくれる、頑張らせてくれる存在を錨と呼ぶんですね。
依存症の治療を続けるのは長い時間がかかりますし、精神的にもとてもしんどいものです。
それを支えてくれる存在、錨を見つけることは、長くかかる依存症治療の希望です。
家族・友人・恋人・趣味・自助グループ・支援者・・・
誰でも何でも大丈夫です。
あなたが「これをしている時は依存対象のことを忘れられる」「この人の前では絶対飲めない」「この人は悲しませたくない」人、環境を探してみて下さい。
そして再飲酒、再使用の危険が高まった時に、錨となる人や環境を頼ってみて下さい。
依存症治療において、危険な場面4つを以下の記事で紹介しています。
例えば・・・
「自分は金曜日の夜になると必ず飲みたい気持ちが高まる・・・週末だし、夜はお腹も空いてきて居酒屋に行きたくなる」という人は・・・
→診察は金曜日に予約をし主治医へ毎回相談をする、金曜日の夜は自助グループに行く、家族と予定を入れる、土曜日の朝から好きなスポーツができる場所を探しておく、などのあなたが持っている錨を頼ってみて下さい。
【まとめ】
いかがでしたか?依存症治療では、「引き金を把握し」「引き金の対処を考える」ことと、「錨を探して頼る」ことがとても大切です。
あなたの引き金と錨を探してみて下さい。